特許実務雑感39
拒絶理由通知の中で、記載要件違反の通知を受けることがある。これには、大きく2つあって、特許請求の範囲の記載違反(特許法第36条6項1号、2号)と、明細書の発明の詳細な説明の記載違反(特許法第36条4項1号)である。特許法第36条6項1号違反は、特許請求の範囲の記載が明細書に開示した範囲を超えている場合がこれに該当する。例えば、請求の範囲に「超音波モータ」と記載し、明細書の実施例として「直流モータ」のみ説明されている場合が該当する。また、同2号違反は発明の明確性を欠く場合であり、例えば上限又は下限だけを示すような数値範囲限定(「~以上」、「~以下」)、比較の基準が不明確な表現(「高温」、「低温」等)を含む場合が該当する。これらは、補正により訂正することで、解消できる場合が多いです。しかしながら厄介なのは、特許法第36条4項1号(所謂実施可能要件)違反の拒絶理由が指摘された場合である。例えば、機能・特性等によって物を特定しようとする記載を含む請求項において、その機能・特性等を定量的に決定するための試験・測定方法や実験データが明細書に記載されてない場合、当業者が実施可能でないとして拒絶される場合があります。特許請求の範囲に「偏心カムの回転にともなってシリンダ内をピストンが内サイクロイドの軌跡に従って往復動する」と記載されている場合に、内サイクロイドの軌跡には様々な半径の外接円により多様な軌跡が存在するため、明細書の記載により動作が一様に特定できないと指摘された場合が該当します。このような場合、後から実施例を追記する補正は一切認められない以上、国内優先権(先の出願から1年以内に出願)を使わないと救済されません。
弁理士 平井 善博