知財関連コラム

特許実務雑感12

 クライアントさんから出願依頼を受ける場合、願書の記載事項として、発明者は誰で、出願人は誰になるのかを必ずお伺いする。このとき、発明者個人による出願は発明者及び出願人名が大抵一致するのであるが、会社名で出願する場合、発明者としてその会社以外の人を記載する場合がある。例えば、発明完成時に着想を提供した個人や学者等(例えば甲とする)と、A社従業員乙と共同開発した発明について、発明者は甲及び乙でA社単独で出願Xをしたとする。この場合、甲の特許を受ける権利の持ち分をA社に譲渡するとの譲渡契約を正式に交わしてあればよいのであるが、これを口約束だけで行って、後で出願Xの権利化を甲に邪魔されたというケースがある。
 即ち、A社が出願Xについて出願審査請求を行って権利化を図る段階で、甲とA社との関係が悪化して、甲が審査官に対して特許を受ける権利の持ち分をA社に譲渡していない旨を上申したとする。このとき、担当審査官は、出願人A社に対して発明者甲の特許を受ける権利の持ち分の譲渡証を提出してください、との拒絶理由通知が出される。
 A社としては、甲から特許を受ける権利の持ち分譲渡を受けていない以上、譲渡証は提出できず、あらためて甲と話し合いをしてもまとまらず、出願Xについて権利化を断念せざるを得ないといったケースである。
 他にも、C社従業員丙とD社従業員丁が共同で研究開発を行って発明者に丙及び丁を記載し出願人がC社のみで出願した場合にも同様のことが起こり得る。
 たかが発明者の欄の記載として軽く見てはいけない。審査官としては発明者から特許を受ける権利を会社(法人)に譲渡されているであろうという推定のもとに審査を進めているのにすぎないのである。

弁理士 平井 善博

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