特許実務雑感82
今回から他人の特許化を阻止する制度について説明します。一つ目は、情報提供制度があります。ある特許出願に対して、第三者が特許要件(記載要件を除く)違反の証拠を提出することができる制度です。出願中においては、出願公開以降に自由に提出することができ、特許後も提出することができます。どのような場面で活用するかといいますと、例えば出願公開された競合他社の出願が仮にそのまま権利化されると事業活動に影響が出るおそれがある場合等に権利化阻止の手段として利用します。基本的には新規性・進歩性違反に相当する文献を提出する場合が多く、インターネット等で公開されているホームページの情報なども資料として提出することができます。情報提供制度の使い勝手が良いと思われるのは、匿名で提出ができることです。ですから競合他社に実施の事実を察知されずに権利化阻止を図ることができます。もちろん、審査官は、職権主義のもとで出願内容を審査しますから、提出された証拠が必ず採用されるとは限りませんが、証拠の精度が高い場合には採用される可能性は高いといえます。また、権利化後(特許後)も提出できるといっても、そんなことして意味あるのかと思われるかもしれませんが、仮に権利化後に無効審判が請求されたとすると、審判官は職権主義に基づいて証拠調を行うことができますから、情報提供された資料も審理対象となる可能性が高く、それに基づいて無効審決をすることが期待できます。また、権利者が訂正請求や訂正審判を使って権利内容を訂正してくれれば権利範囲を外れることも期待できます。すなわち、審査・審判における職権主義を逆手にとって審査・審理協力の名目で行われる権利化阻止制度であると言えます。
弁理士 平井 善博