特許実務雑感79
今回は令和5年に知財高裁大合議判決が下されたドワンゴ対FC2事件について説明します。動画配信サービス「ニコニコ動画」を運営する(株)ドワンゴはニコニコ動画ではおなじみの、動画再生中にコメントを表示するシステムの特許権者です。米国法人であるFC2, INC.は、米国にサーバを有し、インターネット上のコメント付きFC2動画配信サービスに係るシステムを運営しています。(株)ドワンゴが「FC2動画」等の動画配信サービスを運営する米国法人FC2, INC.等を特許権侵害で訴えたのが事件の内容となります。注目すべき論点は2つあり、1つ目の論点はサーバが端末を動作させる行為がシステム(サーバ+端末)の生産行為に該当するか?2つ目の論点はサーバが海外にあるシステムにおいても日本の特許権侵害を構成するか?にあります。知財高裁は、1つ目の論点につき、ネットワークを介してサーバと端末が接続され、一体としてまとまった機能を発揮するネットワーク型システムの発明における「生産」とは、単独では当該発明の全ての構成要件を充足しない複数の要素が、ネットワークを介して接続することによって互いに有機的な関係を持ち、全体として当該発明の全ての構成要件を充足する機能を有することによって、当該システムを新たに作り出す行為をいう、との見解を示し、生産行為を認定しました。2つ目の論点としてネットワーク型システムの侵害行為について、属地主義の原則を厳格に解釈するとすればサーバを国外に設置さえすれば特許を容易に回避し得ることとなり、当該システムの発明に係る特許権について十分な保護を図ることができない、との見解を示し、侵害認定を行いました。
弁理士 平井 善博