特許実務雑感33
記載要件違反の拒絶理由は大きく分けて2種類あり、一つ目は、特許請求の範囲の記載に関するもの、二つ目は明細書の発明の詳細な説明に関するものである。特許請求の範囲の記載に関するものとしては、発明の詳細な説明に記載したものではない、いわゆる広すぎる発明の場合、発明開示の代償として権利付与される制度趣旨より拒絶される。この場合、実施例として開示された範囲に整合するように補正すれば拒絶理由を解消できる。また、特許請求の範囲の記載が不明確な場合、発明の外延が不明確となって権利範囲が確定できないため拒絶される。この場合不明確な記載を明確になるように補正すれば拒絶理由を解消できる。これに対し、発明な詳細な説明に関する記載不備は要注意である。発明の詳細な説明は、いわゆる当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていることを要する。例えば発明の詳細な説明に、発明の作用効果に関する記載があるものの、その記載を裏付けるデータや実験例がない場合に拒絶される。やっかいなのは、補正により後からデータ等を追記しようとしても新規事項追加に相当するため、補正することができない場合が多い。出願から1年以内であれば、国内優先権制度を利用して出願の置き換えを行うことができるため、実施例の記載を補充して出願することがあるが、1年経過後はこのようなことはできないし、まして先の出願が出願公開された後では、出願し直すとしても先の出願が公知技術となって後の出願の邪魔をするおそれがある。よって、当初明細書の発明の詳細な説明の記載は可能な限り充実させておいた方がよく、特許請求の範囲の記載は、発明の構成について記載を迷ったら省くぐらいの対応でよいと思われる。
弁理士 平井 善博