第1回 TPPにおける知的財産分野の概要
昨年10月、TPPの具体的内容が大筋合意に達しました。TPPとは、Trans-Pacific Partnership(環太平洋パートナーシップ)の頭文字をとったものであり、オーストラリア,ブルネイ,カナダ,チリ,日本,マレーシア,メキシ コ,ニュージーランド,ペルー,シンガポール,米国,ベトナムの12か国で交渉が進められてきました。
TPPでは、貿易の自由化、投資、人の移動、知的財産の保護や競争政策におけるルール作りなど様々な分野での協力、幅広い経済関係の強化を目的としております。
TPPにおける知的財産とは、商標、地理的表示、特許、意匠、著作権、開示されていない情報等です。TPPでは、知的財産についてWTO協定の一部である 「知的所有権の貿易関連の側面に関する協定」(TRIPS協定)を上回る水準の保護と、知的財産権の行使(民事上及び刑事上の権利行使手続並びに国境措置 等)について規定しています。
以下に知的財産に関する特徴点の概要を記します。
〇 医薬品の知的財産保護を強化する制度の導入
① 特許期間延長制度(販売承認の手続の結果による効果的な特許期間の不合理な短縮について特許権者に補償するために特許期間の調整を認める制度)
② 新薬のデータ保護期間に係るルールの構築。
③ 特許リンケージ制度(後発医薬品承認時に有効特許を考慮する仕組み)
〇 商標
①商標権の取得の円滑化:国際的な商標の一括出願を規定した標章の国際登録を定めるマドリッド協定議定書(マレーシア、カナダ、ペルー等が未締結)又は商 標出願手続の国際的な制度調和と簡略化を図るためのシンガポール商標法条約(マレーシア、カナダ、ペルー、メキシコ等が未締結)の締結を義務付け。
②商標の不正使用について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。
〇 特許
①特許期間延長制度(出願から5年、審査請求から3年を超過した特許出願の権利化までに生じた不合理な遅滞につき、特許期間の延長を認める制度)の導入の義務付け。
②新規性喪失の例外規定(特許出願前に自ら発明を公表した場合等に、公表日から12月以内にその者がした特許出願に係る発明は、その公表によって新規性等が否定されないとする規定)の導入を義務付け。
〇 著作権
① 著作物(映画を含む)、実演又はレコードの保護期間を以下の通りとする。
(1) 自然人の生存期間に基づき計算される場合には、著作者の生存期間及び著作者の死から少なくとも70年
(2)自然人の生存期間に基づき計算されない場合には、次のいずれかの期間
(i) 当該著作物、実演又はレコードの権利者の許諾を得た最初の公表の年の終わりから少なくとも70年
(ii) 当該著作物、実演又はレコードの創作から一定期間内に権利者の許諾 を得た公表が行われない場合には、当該著作物、実演又はレコードの創作の年の終わりから少なくとも70年
②故意による商業的規模の著作物の違法な複製等を非親告罪とする。ただし、市場における原著作物等の収益性に大きな影響を与えない場合はこの限りではない。
③著作権等の侵害について、法定損害賠償制度又は追加的損害賠償制度を設ける。
これらTPPの規定が発効され国内法に適用されることによって、マドプロ出願がしやすくなるなどのメリットがあると思います。
また、新規性喪失の例外規定の期間が12か月になることは、国内出願又はTPP加盟国への出願についてだけ考えるとメリットはありますが、TPP加盟国以外の国で新規性喪失の例外規定を認めている国は少ないですから、TPP加盟国以外の国に特許出願する場合には注意が必要です。
さらに著作権においては、著作権者への保護がより手厚くなったといえるでしょう。
–Masahiko Denda