知財Q&Aコーナー(15)
Q:特許権に対抗するために、「先使用権」という権利があると聞きましたが、どのようなものでしょうか?
A:特許権は、最先の出願人に付与されます。したがって、他人の出願の際に、自ら成した同内容の発明を非公開の状態で実際に実施あるいはその準備をしていた場合には、他人の特許権取得以降は実施出来なくなってしまいます。
確かに、特許制度は出願を行うことによって発明を公開する代償として独占権を付与するものですが、発明をした者全てに出願を強制する結果となることは好ましくなく、逆に発明をノウハウとして保持することも個人の自由であると考えられます。また、他人が特許権を取得したというだけで、現に実施をしている者が継続して実施出来なくなるということは公平の理念にも反すると考えられます。
そこで、特許法においては、他人が取得した特許権に対して、その出願前から実施あるいはその準備をしている者(「先使用者」と呼びます)に、その特許発明を実施する権利(通常実施権)を認める形で保護を図っています。この実施権を「先使用権」と呼び、その制度が設けられた趣旨から、実施するにあたってのロイヤリティーの支払いも不要です。
なお、先使用権が認められる条件としては、自ら発明をしたものであることや、他人の出願の際に、現に日本国内で、その発明の実施となる事業(準備を含む)をしていること等が必要です。
すなわち、「先使用権」は特許権者から「侵害」であると言われた場合に、「抗弁権」として作用します。しかし、この「先使用権」は万能なものではなく、例えば、実施の事業目的を変更する場合には認められないとの学説が主流であり、細かな点に注意する必要があります。
(参考文献:特許法概説/吉藤幸朔著)
弁理士 岡村 隆志