特許実務雑感10
発明者が職務発明について会社に特許を受ける権利を譲渡した場合、金銭等経済上の利益(相当の利益)を受ける権利を有する。所謂、対価請求権を有する。この相当の利益の中身は、従来金銭によって支払われることが多いのであるが、昨年の法改正で会社ごとに独自に規定できるようになった。この改正法では、契約、勤務規則等により特許を受ける権利を発明完成時から、発明者ではなく、法人に帰属させることができるように改正されている。誤解されがちであるが、職務発明について、従来通り、特許を受ける権利は、原則発明者(従業者)に帰属するようにしたままでも、法上問題となることはない。
改正の背景には、発明者に支払われる対価に不足分があれば会社に対して請求でき、会社は従業者や元従業者によって常に対価請求訴訟を起こされるリスクを負う。また、発明者が何千人、何万人といる会社規模になると、対価の支払いを案件ごとに時期をとらえて実績報償金として支払いを管理するのは、非常に負担が大きいという実情がある。
また、A社従業員甲とB社従業員乙とが共同で職務発明を行って共同出願する場合、特許を受ける権利の譲渡手続が正当に行われていないという実態が存在する。甲からA社に特許を受ける権利の持分を譲渡する場合、乙の同意が必要であり、乙からB社に特許を受ける権利の持ち分を譲渡する場合、甲の同意が必要である。この同意を取り合う行為が実際は抜け落ちている場合が多い。これにより、A社とB社が共同出願人として出願を行っても、実際は特許を受ける権利の譲渡が適性に行われていないため、無効理由が存在することになるのである。
弁理士 平井 善博