特許実務雑感81
今回は令和6年5月1日から施行された特許出願非公開制度について説明します。従前は、すべての特許出願は、取下等されない限りは、重複出願、重複研究、重複投資を回避すべく全件公開されるのが原則でした。しかしながら、経済安全保障の観点から、内閣府主導で特許出願非公開制度が導入されました。国家及び国民の安全を損なうおそれが大きい発明に関する特許出願の公開を防ぎ、情報流出を防止することを意図しています。どのような技術分野が該当するかは、特定技術分野として政令で指定されます(例えば、先端武器技術等に転用可能なもの)。手続きとしては、特許庁が第一次審査として出願から3か月以内に特定技術分野に該当するか否か審査します。該当する場合には内閣府に書類が送付され第二次審査として保全審査が行われます。該当しない場合には、通常の出願と同様に出願公開されます。保全審査は、出願から10か月以内に、発明情報を保全するのが適当か否か、安全性の観点や非公開とした場合の産業界への影響等を考慮して協議されます。保全指定に先立って出願人には出願を維持するか否かの意思確認が行われます。出願取下げの意思を示す場合もあるからです。保全指定されると出願公開されず、出願取下げも不可、発明実施の許可制、外国出願禁止等の強い法的効果が生じます。この場合、実施制限される出願人の不利益を補償するため、損失補償がされます。保全指定がされないか或いは一旦指定されたがその後指定が解除されると、通常通り出願公開されます。インターネットや自動掃除ロボットなどのように、軍事用技術が民生機器に転用されるケースがあるため、今後は自社技術が特定技術分野に該当すると判断される場合もあるかもしれません。
弁理士 平井 善博