知財関連コラム

特許実務雑感76

 無効審判は、特許の有効無効を争う制度ですが、主に権利侵害を問われた被告の立場から請求する場合が多いです。侵害訴訟に対抗するカウンターのように用いられます。侵害訴訟の根拠となる特許権が始めからなくなれば、侵害行為も成立しなくなるためです。もちろん侵害訴訟の中で被告から抗弁として主張されることも多いです。無効審判は口頭審理を原則としていますから、審判請求書と答弁書が提出された後で期日の指定がされ、口頭審理が開かれる日時が決定します。請求人及び被請求人が揃ったところで、互いに陳述する機会が与えられます。被請求人である特許権者には、訂正請求する機会が与えられる場合があり、これに対して請求人は再答弁する機会が与えられます。双方の弁論が尽きると、審決となります。無効審判は自由心証主義によって審理されますが、請求人の提出した審判請求書、被請求人の提出した答弁書の中で主張立証する証拠の精度の高さで、審判官の心証は大きく左右されます。当事者主義を採用する侵害訴訟と違うのは、職権主義が採用されており、審判官の裁量で審理が進められ、証拠収集が行われる点があります。例えば、請求人が無効理由として挙げた主引用例と副引用例が審判官の裁量で入れ替わることがあります。これは審判の審決には対世的効力がある(第三者にも効力が及ぶ)のに対し、侵害訴訟の判決は当事者効のみである(当事者間のみ効力が及ぶ)との相違に基づくものと考えられます。審査において何ら拒絶理由の指摘もなく特許になった特許権者から権利行使を受けた場合、事後的に無効理由となる文献が見つかる場合があります。よって、権利者は権利範囲が広いと確信して権利行使する場合にも、相応の慎重さが求められます。

弁理士 平井 善博

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